カテゴリ:式神 (2/5) | 魔法石の庭3rd

式神の記事 (2/5)

真理矢と茨の決闘(模擬戦)

「暇だね」と、茨がいつものように窓辺でタバコをふかしながら言います。

「あーあ。ここの屋敷にはいつも誰かさんが襲来してくるのがしきたりって聞いてたけど、あたしが式神になったのに全然来ないじゃないか」というので、「そんなしきたり、あってたまるか。そんなに暇なら、真理矢との戦闘訓練に付き合ってきたら?」と私が言うと、「ああ、そうか。あいつはまた一人でやってるんだね。そうだね……そろそろ真理矢も仕上がってきた頃かね」と言って、茨は「よいしょ」と窓の桟から手を放し、窓を閉めて、キセルの中の灰をゴミ箱に入れます。

「真理矢のところに行くの?」と聞くと、「ああ……そうだな。あいつの槍術がどれだけ上がったもんか、試してみたい。なんなら、かみなと2対1でもいいよ?」と言われ、「……ずいぶん強気みたいだけど、ホントに大丈夫なんでしょうね?私、あんたが本格的に戦ってるところ見たことないんだけど」と答えると、「はっ。この鬼に向かってあんたも強気だねえ。……まあいいよ。とりあえず道場に向かおうか」と言われ、私たちは連れだって館の外の道場に行きます。

「あっ、姉様……」と、真理矢が型を取っていたのを止めて、一礼します。少し癖のあるポニーテールの髪がさらさらと揺れました。
「さて。ちょっとあんたに決闘を申し込みたいんだが」と、茨が言います。
「決闘……?しかし、何をかけて?」と真理矢が言うので、「そうだね。今日のおやつの苺大福。いや、ちょっとキッチンに行って何かつまもうとしたら、目に入ったんだがね。それを賭けよう」と、茨が言うと、「苺大福……」と、真理矢が少しぼやっとしているので、「真理矢、よだれ垂れてる」と外野からヤジを飛ばすと、真理矢が慌てて口元をぬぐいます。もちろん、よだれなんて出てないんですけど。

「わかりました。乙女のスイーツ魂を賭けて、あなたの分の苺大福もいただきです」と真理矢が言うので、茨は「よし。ハンデとして……かみな、鉄扇を」というので、私は、一度茨に見せたことがある鉄扇を茨に向かって投げました。
「鉄扇っていうのは、武器としてはロマン武器(かっこいいけど役にはあまり立たない)だからねえ。これで戦ってやるよ」と言います。

「じゃあ、私が審判ね。お互い、特殊能力は使わないこと。純粋に力と技だけで押し切ること。開始の合図は、西部劇みたいに、後ろを向いて3歩歩いたところから始めよう。振り向いた時から決闘開始だよ。じゃあカウント。1、2……3!」
 と、カウントを終えると、二人は向き合いました。

 真理矢の日本号が、まずは茨の腹を突きますが、茨はそれをひょいとかわします。かわした茨が、真理矢に接近し、鉄扇を閉じたまま突きを繰り出すと、真理矢はそれを槍の柄で受けます。
 そして、二人とも再び距離を取ると、一気にぶつかります。
 真理矢は今度は日本号を茨の足下を払うようにさっと滑らせます。「おっとっと」と、茨がバランスを崩したので、真理矢が「はっ!」と息を吐くと、茨に突進しました。

「真理矢はチョロいんだねえ」と、茨がニヤリと笑うと、その刃先をなんと素手でぱしっと捕まえ、そのまま真理矢腕ごと、くるっと回転させて床にたたきつけます。
 息ができなかったのか、真理矢がごほごほと咳き込むと、「わざと誘ったのに気づかなかったか?だからあんたは半人前なんだよ」と、余裕の笑みで真理矢のにらみ付けを受けます。

「で、どうする?まだやるか?」と茨が聞くと、真理矢は「やります。元々、鬼のあなたに戦闘で勝とうとは思っていない。これは、僕の未熟さを知るための戦いです」と言います。
「だ、そうだが?かみな?」と茨は私に伺いを立てます。「……怪我しない程度にね」と、私は元からこいつらを止めても意味がないだろうと、せめて最低限のことだけは言っておきます。

「それじゃあ、またハンデだ。あたしはここから動かない。もし、動いたとしたら、あたしの負けにしよう。さて、真理ちゃんはどうするかね?」と聞いて来ます。
「槍術の基本は、特攻あるのみ。……というか、さりげなく真理ちゃんはやめてください」と真理矢は日本号を握り直します。

 そして、真理矢の特攻を、茨は鉄扇だけで防いで見せます。「ああ、蚊が止まる。全然なってないね。真理矢、あんたは型を取るが故に、自分の個性を殺してる。型どおりにやらなくても、別にいいのさ。いや、確かに型を習ってからそれを崩すのはいいさ。でも、そうだね、野球で言うと長嶋茂雄なんだよ。長嶋は、自分のバットを忘れたからといって、仲間のバットを借りてそれでホームランを打ったっていうしね。天才ってのはそういうものなんだよ」
 色々良いことは言っているのですが、最初だけしか聞いてなかったのか、真理矢は「またそうやって馬鹿にして!」と、槍で突進します。

「かみな……こんなところにいたのか」とメローネが、道場に現れたので、「ああ、道場なら、今使ってるからちょっと待って。今、苺大福を賭けた戦いが繰り広げられてるから」というと、「……なんだか馬鹿馬鹿しい戦いだな」というので、「メローネだって、スイーツ好きでしょ?自分のお菓子が相手に奪われるなんて嫌でしょ?エアロスミスはそれで解散の危機になるまでケンカしたっていうし」とどうでもいい知識を披露します。
「エアロスミス……?」と聞くので、「ええと、エアロスミスのメンバーが、日本に来たときに鯛焼きに酷くハマってね。持ち帰りで買って、後で皆で食べよう、と帰りの飛行機に持ち込んだんだけど、どうやらスタッフかメンバーが待ちきれずにほとんど食べちゃったらしくてね。それで、「食ったのお前だろ!」「俺じゃねーよ!こいつだろ!」って大騒ぎになって、危うく解散、まで行ったそうだよ。鯛焼きでスーパーバンドを解散させるなんて……食い物の恨みはなんとやらだね」と私は肩をすくめます。

「なるほど。で、そろそろ茶の時間だから呼びに来いとサーシャが言っていたんだが……」というので、静かになった二人を見やると、茨が真理矢ののど元に鉄扇を寸止めしているところでした。

「……約束通りですよね」と真理矢が言って、立ち上がります。そして、「はあ~あ」とため息を漏らして、なんだか鬱オーラが出ています。
 そんなに、苺大福が食べたかったのでしょうか?

 でも、その後、私が空のお皿を前にしゅんとしている真理矢が可哀想になって、「はい、私の半分あげる」と取り分けました。
「姉様!一生お守りいたします!」と急に元気になったので、「ああ、わかったよ。食べちゃいな」と言っているところを、メローネは複雑そうに、茨はほんわかしながら見ていました。
にほんブログ村 哲学・思想ブログ スピリチュアル・精神世界へ
にほんブログ村

スモーキー・トリル

 なんか、去年か一昨年買った、アゼツライトのリングをしているのですが、これ、11号より明らかに大きいよね?って感じです。
 華奢なデザインだから?なんか、リングの場合、幅が広くなると皮膚と接している面積も広がるので、摩擦が起きやすい……つまり、幅の広いリングをする時は1号大きなサイズを選ぶと良いそうです。たとえば、翡翠のくりぬきリングなんかは、ぴったりサイズだときついわけですね。

 さて、昨日の我が嵐が丘の様子を見ていきましょう。

「茨、だいたい片付きましたよ」と真理矢が応接間まで呼びに来ました。……現実の方にいないで、ずっとあっちで引っ越しの片付けしていたようです。
「ああ、サンキュー。それと、もうあんたとあたしはいわば同僚なんだから、敬語はやめてくれよ」と茨が頭をこりこり掻くと、「そういうわけにもいかないでしょう。あなたは一応鬼……古き神々の一柱ですから。僕は、姉様とも敬語ですし。ま、メローネは格下なので敬語を使う必要もありませんけどね!」とドヤ顔で真理矢が言います。……多分、ガチでケンカしたらメローネには負けると思うんですけど。

「んー。なんていうかな。慇懃無礼って言葉を知ってるか?丁寧さも度が過ぎるとかえって相手の失礼に当たるって意味なんだが」と茨が言うので、真理矢は「それぐらい知ってます」とすました顔で言ってのけます。
「……え?何?私のことも実は下に見てるってこと?」と私がちょっとショックを受けていると、「いえいえ、姉様は違いますから!本気の敬語ですから!」と真理矢が慌てるので、「何だろう?本気の敬語って何だろう?」と二人を見回します。

「……でもさ。二人とも、なんで私なんかを主に選んだわけ?私は確かに、人間だからこっちの世界ではある程度の能力はあるよ?でも、現実ではただの30歳超えたパートタイマーの障害者だよ?よくこんなのの式神になったなーって。真理矢も茨も、前から私を見てたみたいだし」
 そう言うと、真理矢は「姉様が姉様だからついていくのです!」と単純明快に答え、対して茨は「ううむ」とうなります。

「リーダーとか主ってのはね。大まかに2種類にわけることができるんだ。まず、能力が高かったり、責任感があったりで、『こいつについていけば安心だ』ってタイプだね。リーダーとか主って言葉だけだと、こういう人間を指すことが多い。しかし逆に、全然ダメだったり、能力もたいしたことないやつが主に選ばれることもある。こういうのは、大抵『こいつは私が面倒を見ないと生きていけない』っていうやつだね。いわゆるダメ男とかダメ女は、こういうタイプかな?あんたたちの世界でもあるはずだよ、友人に借金、彼女に仕事から家事まで全部やらせる、でも、何故か周りは文句を言いながらも付き合ってしまうってのがね」

 私は、「それって、私がダメ女だってこと……?」と聞くと、茨はカカカと笑って「まさにそれだね。しかし、こういう人間は、何故か優れた人間とくっつくんだよ。ダメ男は働き者の女を見つけ、ダメ女は能力の高い男を捕まえる。そういうもんなんだ。よく、『仕事も家事もできて完璧だけど、なぜか付き合う人間がダメ男ばかり』って女がいるだろ?それは、そういう風にシステムができあがってるってわけだ」

 そこで、茨は着物の懐からキセルを取り出しましたが……そこで、ふと私たちに気づいたように見えて、「ああ、あんたらはタバコはやらないんだっけ。ちなみに、この館の喫煙所はどこだい?」と聞くので、「喫煙所は特にないけど。今までタバコ吸うガイドも式神も妖怪もいなかったしね。でも、窓を開けるとか、自分の部屋なら吸ってても文句は言わないよ」と返します。

「いやいや、あたしもそろそろタバコ止めようかと思ってるんだけどね。これがなかなか……赤ん坊のおしゃぶりと同じさね。ちょっと手持ち無沙汰になるとつい一服したくなるんだよ」と言って、茨は応接間の窓を開け、慣れた手つきでキセルに刻みタバコの葉をセットすると、キセルを咥えてジッポ?っていうんですか?金属製のライターで火を付けます。
 そして、窓を開けると、気持ちよさそうに目を細めて、煙を吸い込み、吐きました。

「マッチじゃないんだね?」と聞くと、「まあね。昔なんぞは火打ち石で、これが慣れないと全然火が付かなくてね。マッチが出てきた時には本当に画期的な発明品だと思ったが、すぐにライターなんてものが出てくるとはね……しかし、便利だから使ってるんだよ」と言って、煙を吐きます。
「しかし、何故ジッポを?普通のライターでも良いでしょうに」と真理矢が言うと、「ん?ああ。こいつは、使い込むごとに味が出てくるんだよ。愛煙家の中では、傷だらけで煤けたジッポってのがまたカッコイイってもんでね。オイルさえ足してやれば、いくらでも使えるからねえ」と茨が答えます。

「へえ……まあ、私の周りの友人も、愛煙家多いけど。私は吸わないし、吸ったことないからわかんないんだけど、何となくタバコってのは嗜好品というよりも、精神安定剤代わりみたいな気はしてるよ。昔、テレビで観たことあるんだけど、ウサギにタバコの煙をかがせると、耳の血管が収縮するんだって。つまり、ストレスを感じて、血流オーバー状態になった所を、タバコが鎮めてくれるんだと思ってるけど」
 そう私が言うと、茨は「へえ。まあ、そんな知識がなくても、タバコは嗜好品で有り続けてるわけだからね。まあ、最近は愛煙家も肩身が狭くなってきてるけどね」と、最後はぽつりと空間につぶやきます。

「……けふ。茨、こっちに煙が来るんですけど」と、真理矢が少し涙目で言うと、「あんたが席を替わればいいんじゃないか。ほれ。合法的にかみなの近くに行けるチャンスを作ってやるなんて、あたしは優しい鬼だねえ」と返すので、「じゃあ今までは違法だったんですか!というか、あんたまたケンカ売りたくなってるでしょ!」と、こいつらいつもケンカしてんな。という感じになります。

「じゃあさ、茨は、『脱法ドラッグ』なんてのはどう思う?それと、今は日本は禁止されてるけど、外国の一部では解禁されてる大麻とか」と聞いてみると、「あたしに言わせりゃ、どれも自己責任の範囲内なら別に何やったっていいさ。でもまあ、変な混ぜ物されてて車で人間を轢くとか、そういうのは……ねえ。それこそ、さだまさしの『償い』の世界だね。泣きながら土下座して、それでも許してもらえないのは当たり前。被害者の家族にせっせと毎月仕送りして、それで何年も経って、やっと許される……わけでもないが、家族から返信がもらえる。それぐらいの罪なんだよ、人を殺すってのは。だから、他人に危害を加えないのなら何やっても良い。だが、その反動も考えて使いたければ使えば良いさ、って感じだね」と言って、茨はタバコを吸い終わったのか、側にあるゴミ箱に灰を捨てました。

「ふーん。そういえば私も昔は、市販薬や処方薬のOD(オーバードーズ。薬の決められた量以上を服用すること)したりもしたけど。でも、どっちかというとラリパッパになれるのは、1~2日寝ないで何かしてて、ようやく寝付けたらすっごいサイケデリックな夢見るけどね。その後、吐き気もすごいけど。これって脳内麻薬なのかねえ」と、私は考えながら言いました。

 ま、嗜好品はたしなむ程度に、です。
にほんブログ村 哲学・思想ブログ スピリチュアル・精神世界へ
にほんブログ村

真理矢と茨は友人未満他人以上

 ちょっとのつもりでスピリット界に降りたら、茨が先に来ていて、「ああ、ちょうど良かった。髪を結ってくれないか?」と新設した応接間のドレッサーの椅子に座ってくるりとこっちに背を向けます。

「……姉様、私が結びましょう」と真理矢が言うと、「あー、誰でも良い。結んでくれ」とどうでもいいように答えます。
「しかし、髪を結うといっても、色々あるでしょう。単に結べれば何でも良いなら、あなたに一番似合わない髪型にしてあげますが」と真理矢が黒いことを言うのですが、茨はのんきに「じゃあ、三つ編みで頼むよ。……で、あんまりきっちり結わないでくれ。最近流行の『ゆるふわ』ってやつだね。あ、三つ編みは分けないで一本で頼むよ」と、合っているのか間違っているのかよくわからない頼み方をします。

「……鬼のくせに注文が多いんですね」と真理矢が茨の髪を手に取ると、「あたしだって女だよ?ほら、美容の云々も気をつけないとね」とか。
「うーん、確かに気持ちはわかるけど……まあ、仕事に髪に櫛を通しただけで行く私が言ってもしょうがないか」と私はちょっと「女子力」というものにアンテナ立てないとな……とも思います。

 真理矢は器用に髪を編みながら、「しかし、茨の髪型はよくわかりませんね。もみあげからサイドまでは短くて、正面から見るとボブヘアーなのに、後ろ髪は長いって……後ろだけ長い……あっ(察し」とか言います。
「いや、あたしはヤンキーの子供じゃないからね?そんなに長いところが少なくないし」と、茨がどうでも良い情報を持ってきます。

「はい、できました」と真理矢が仕上げに茨の頭にぽんと手を乗せると、「おお、ありがとう。どうだい?少しは身だしなみに気を遣ってるように見えるだろ?」と茨はご機嫌です。
「……本当は、単に髪が邪魔になったんでしょ?」と言うと、「そ、そんなことあるわけないじゃないですかあ~」と、思いっきり取り乱します。図星だな。

「……しかし、茨、あなた服装にもちゃんと気を遣わないと。上から見ると、胸が見えそうですよ」と真理矢が冷静に指摘しますが、「あたしの胸なんて、見て活力が沸くならいくらでも見るが良いよ」とカカカと笑います。
「ちなみに、下着は?」と聞くと、「付けてるよ?下から支えるやつ。さすがにブラジャーしないと胸が垂れるからね」と胸を張ります。……茨が胸を張ると、おっぱいが……その、強調されて。

「でも、ブラジャーを付けると逆に胸が垂れるとも言いますが」と真理矢がツッコむと、「おや?おや?真理矢ちゃんはもしかしてノーブラ派かい?なかなか大胆だね」と茨がニヤニヤします。
「ノーブラってわけでもありませんが……一応ちゃんと付けてます。ただ、寝る前はブラジャーは外した方が良いというのは知っています」と真理矢が反論しますが、「あたしたち式神って眠るのか?」と言われ、「確かに……」とちょっと声を落とします。

「何?式神って寝ないの?」と聞くと、「まあね。一応あたしらは、主であるあんたを常に守り、時には慰めになる存在だよ。寝てる暇なんてないね。可能なら、夢の中でも登場するし」と、茨が言います。
「……そういえば、メローネはあんまり夢に出てきてくれないけど、真理矢は出てきてくれるね。あれって、寝てないからだったんだ……」と言うと、「その通り」と茨が言います。

「でもまあ、これからは式神が2体だろ?だから、交互に休んだりもできるけどね」とのこと。
「じゃあ、私、今まで真理矢に無理させてたってこと?」と言うと、真理矢が即座に「それは違います」と否定します。
「式神になったのは、僕の意志でもあります。24時間ずーっと起きていても、僕は苦痛には思いません」ときっぱりと宣言するものの、「はっ、無理しちゃって」と茨が茶々を入れます。

「無理なんかしてません。茨こそ、どうなんですか?あなた、自由に行動してるだけじゃないですか」と真理矢が反撃に出ると、「でも、かみなの側は離れないだろ?式神としてはちゃんと仕事してるじゃないか」と言うと、「それでもあんたは自由すぎるんだよ」と私も応戦します。

「なんだい?ずいぶんと二人とも突っかかってくるじゃないか。あたしは、最低限の式神の仕事をしてるだけさね。仕事が終われば、あとは自由だろ?真理矢みたいにサービス残業しない派閥なんだよ」と「わかってないな」というふうにオーバーアクションで両手のひらを上に向けます。

「……なんか、メローネが『厄介だぞ』って言ってた意味がわかった。茨、あんたは確かに頭がよく回るよ」とため息をつくと、「メローネって、あの背の高い銀髪の男かい?確かあんたの婚約者だったね」というので、すかさず真理矢が「僕も婚約者ですけどね」と釘を刺します。

「わかった。わかったよ。茨は自由にしてれば?真理矢がきちっとしてる分、茨との相性は悪くないと思うし」というと、真理矢が「どこがですか!」とえらい剣幕で詰め寄ります。
「……でも、真理矢は別に茨のこと嫌いじゃないでしょ?きっと、心を許せる盟友になれると思うんだよね。一杯ケンカしなさい。ケンカするほど、相手の本音がわかってくる。現実じゃ、それで別れるなんてことにもなるけど、スピリット界はある意味楽園だよ。ケンカしても仲直りできる。引力と斥力の関係だよ」と私は諭します。

「ふうん。要するに、あんたはこう言いたいわけだ。真理矢があたしとケンカするときは、斥力が働いている。でも、さっきみたいに髪を結ってくれたりするときは、引力が関係しているわけだ。心は科学で解明できる。そういうことだね」
 茨がそうまとめると、猪突猛進の真理矢は「はあ……」と、いきなり科学に進路を変えられて、戸惑っているようです。

「うん。でも、なんとなくあんたたちも、ちゃんと友人になれる気がするんだ。だから、出会いをふいにしてはいけないよ。真理矢も友人の一人や二人欲しいでしょ?」というと、「まあ……たまに、式神とか全てを超えて友人ができたらとも思わなくもないです」と言うので、私はうんうんとうなずきました。

「真理矢。真面目すぎるあなたと、適当すぎる茨は、きっと道が交わる。その時を大事にしなさい」と、私は、珍しく主っぽいことを言います。
 ……これでケンカしても仲直りできたらいいんですけどね。
にほんブログ村 哲学・思想ブログ スピリチュアル・精神世界へ
にほんブログ村

茨と、館の皆

 そういえば……と、私はスピリット界に降りて、式神の2人に「あんたたちを連れて、しかもガイドも連れてお出かけする場合、自然と大人数になっちゃうよね。それって先方にとってもあんまりありがたくないんじゃないの?」と聞いてみると、茨が「何、あたしらのどっちかが引っ込めば済むことだね」と言います。
「引っ込む?」と聞き返すと、「うん。主の体の中に入るというかね。そうすれば、式神は一人だろう。感覚は共有しているから、後で教えてやらないといけないということもない。どうだ?あたしたち便利だろ?」と何故か自慢げです。

「ね、姉様の体の中に僕が……」と真理矢が変な妄想をしているので、「ちょっと真理矢、あんたまでこの馬鹿鬼にあてられないでよ」と一応言っておきます。
「馬鹿鬼か。いいね。妙齢の女に蔑まれるというのは、なんというか、倒錯的だね」と茨が言うので、「ほら、茨が真似する!」と言います。

「しかし、茨は『馬鹿は大好きだ』って言ってたけど、馬鹿にも色々あるじゃない?今だとtwitterとかに余計なこと書いて炎上するとかさ。そういう馬鹿も好きなわけ?」と聞くと、「んー……確かに、馬鹿にも色々いるね。あたしは、強いて言うなら『無害の馬鹿』が好きなんだな。あたしとしては、別に未成年が酒飲んだってタバコ吸ってたって、PCで『割れ』使ってたって個人のことだから構わないと思うよ。でもね、それで誰かに害が行くのなら、話は別だね。要は、『馬鹿はいいが、誰にも害のないように』ってことさね」とか。

「……あ。この館の皆にあんたを紹介しなくちゃ。ちょうど晩ご飯の時間だし……真理矢、皆集まってるか見てきて」と指示出すと、廊下を茨と二人で歩いて食堂に向かいます。
 しかし、その途中で、茨が私をちらっちらっと見ているのがわかりました。
「……何?言いたいことあるなら何か言ってよ」というと、「いや、なんでもない。あたしが勝手にやってることだからね」と頬を掻きます。
 そこで、気づきました。茨は、私にスピードを合わせているのです。……思春期カップルの初デートか!みたいな。

 そこで、真理矢が戻ってきて、「皆さんそろっていますよ」と教えてくれました。
 
 食堂に入ると、一斉にこっちに視線が向けられます。
 しかし、茨は慣れたように「おお、結構いるね。遠くから見ても大きな館だと思ってたが、人もいるもんだね」と言ってのけます。ほんと、強心臓なんだから……。

「ええと、この鬼は、茨っていって、私の新しい式神です。力仕事なんかを頼む時はこの茨に頼むといいかも。割と姉御肌だから、頼ってあげると喜ぶよ」と紹介すると、茨が「どうもどうも」と頭をサラリーマンみたいにぺこぺこ下げます。
「何だろう?私、すごく茨に親近感覚えるんだけど」と赤毛が言うので、「赤毛」「ん?」「爆発しろ」「酷い!」といつもの一連のやりとりをします。

「ふ~ん……あなた、茨って言うのね」と、空いている席についたところ、セルフィが絡んできました。まずいですよ!
「茨って言えば、茨……」「おっと、手が滑った!」と、私がセルフィの口に、デザートのケーキを突っ込みます。
 セルフィはむぐむぐ言っていますが、どうやら口に物が入っているので喋れない様子です。

「セルフィ、そういうのはデリケートな問題だから……」と、しーっと指を唇に当てると、セルフィはきょとんとこっちを見ています。……わかってるのか?
「あはは、それぐらいであたしは怒ったりしないよ!」と茨が笑います。「鬼は頑丈なんだ。体も心もね。だから、遠慮なく色々言ってくれよ。……まあ、それで悪いところを直すかどうかは疑問だけどね!」と言うので、「いや、悪いところは直さなきゃダメだろ……」とツッコミます。

 ふと、メローネの方を見やると、「ほら、厄介だ」という風に苦い顔をしています。……なるほど、厄介ですね。茨は一緒にいて色々と飽きませんけど。

「ふうん?じゃあ、本当に鬼のパンツは虎柄なのか聞いてみようじゃない?」とセルフィが言うと、茨(ちなみに、いつもは胸の空いた着物姿。おっぱいおっぱいです)は「んなこたない。今日は流行の縞々だよ」と答えます。「んなこと答えなくてもいいっちゅーねん!」と頭を軽く叩くと、「何でだ?今流行ってるんだろ?縞パンっていうのがさ。あたしも今日は下着も一張羅で……」と言いかけるので、「だから言わなくていいっての!」と再び叩きます。

「……ぷっ、あはは、鬼って面白いのね」とセルフィが笑い出します。
「正直、かみなが『鬼の式神を貰った』と聞いた時には、どんなムキムキな鬼が来るのかと思ったわ。なのに、この細腕の女の姿でしょ?しかも美人だし。でも、話してみるとやっぱり鬼なのね。多少デリカシーはないけど、まあ、鬼ってそういうものだし」と、セルフィはケーキを食べ終えると、紅茶に手を付けました。

「……おや?あたしに茶を入れてくれた子供もいるんだね?あれはメイドかい?」と茨が言うので、「あれは、まあ、うちに住みついてる吸血鬼……の幽霊。一応、客なんだけど、お茶係になってるね。まあ、うちの家族の一人だよ」と言います。
「……ってことは、この館は家族で住んでるってことか?」と言われるので、「うーん、血のつながりはないよ?でも、私は皆は家族だと思ってる」と答えると、「……あたしも?」と言われ、「ま、まだ会って3日くらいしか経ってないんだけど……でもまあ、家族だよ」と安請け合いします。

「そっか、家族か……」と、茨はなんだか嬉しそうです。
「家族ねえ」と反芻して、ふふっと笑っています。……安請け合いしたことに、ちょっと罪悪感。

 茨は、村人からは距離を置かれて、一人で山の上に暮らしていたので、「家族」とか「仲間」というものを求めていたのかもしれません。だから私の式神になんてなったのかな?
にほんブログ村 哲学・思想ブログ スピリチュアル・精神世界へ
にほんブログ村

新しい式神・鬼さん

 スピリット界で、大きな動きがありました。

 私があっちに降りると、サーシャが来て、「あんたに客よ」と言われました。
 誰だろう?と、色々と思い当たるふしがあるので、「応接間に呼んで」と言って応接間への扉を開けましたが、後ろからメローネに「なんだか嫌な予感がするんだが」とぼそりと言われます。「え?襲撃とか?」と振り向いて言うと、「違うと思うが……どっちかというと、厄介という意味だな」と言いつつ、メローネは「俺はここにいる。何かあったら呼べ」と言い放ってベッドに寄りかかります。

「厄介って……」と思いつつ真理矢と応接間へのドアを開けると……。

「よ。邪魔してるよ」と、黒髪の美しい、日本美人な、しかしその頭からは二本の角が生えた鬼と、それとアラハバキ様が人間の美形男子……童顔のサッカーの内田選手の姿でテーブルを囲んでいました。
「鬼さんにアラハバキ様?一体これは何の集まり?」と言うと、「いやね。ちょっとあんたに提案があるんだ」と鬼が言います。

「提案……あ、却下します」と言うと、「まだ何も言ってないだろ。何、あんたにとっては良いことだよ」とニヤニヤと言われます。
 そして、「あんた、あたしを式神にするつもりはないか?」と、とんでもないことを言い出しました。

「式神って……」と言って、真理矢を振り返ると、真理矢はぶんぶんと首を振って「ノー」の意志を見せます。
「いや、そんなこと急に言われても」となんとか穏便に済ませようとすると、アラハバキ様が「……こいつがこういうときは、100年単位でないとコトが動かん。つまり、向こう100年はお前の式になり続けると言うことだが……さて、どうするか」と、ヒゲの生えなそうな顎をつるりと撫でます。

「どうするか、じゃなくてですね。ここは穏便に帰って貰うことはできませんかね?」とアラハバキ様に言うと、「なんだなんだ、どうにも冷たいね。あたしが式神になれば、あんたは100人力だよ。何せ鬼の力なんだからね。どうせあんたのことだから、あたしを脳筋のアホだと思ってるかもしれないが、これでなかなか頭も働くんだよ?」とサーシャが出したと思われる紅茶をひとすすりしてニヤリと笑います。

「鬼さん、式神になったら、私より力が落ちちゃいますし……」と言うと、「問題ない。今の力のまま、受け継がせれば良いんだ。『強くてニューゲーム』ってやつかい?ちょっとばかりズルをさせてもらうよ」と言うので、「アラハバキ様、それってホントですか?」と言うと「……残念ながら本当だ。私もずいぶん説得したんだが、こいつはほら、こういうやつだろう?まったく、鬼というのは……」とほとほと困り果てたように言うので、私も何も言えなくなります。

「……ん?この沈黙は、オッケーってことでいいのか?オッケーか?」と鬼が言うので、「あなたは、なんでそうプラス思考なんですか!今の会話聞いててオッケーなわけないでしょ!」と叫びます。
「あーあーそうか。人間は冷たいなあ。一人ぼっちの鬼を捨てておくのか。冷たい冷たい」というので、「あなたには村人がいるでしょ」と返すと、「村人とはなあ……最初は良かったんだ。あいつらもあたしを頼ってくれて。でも、それが子になり、孫になり、をすると、どうしても序列ができちまうんだね。あたしは、あんたみたいに馬鹿正直な馬鹿が好きなんだ」と、ストレートの背中まである髪をばさり、といじりながら言いました。

「馬鹿って……それに私、別に正直なわけでもなんでもないですよ?ただ、嘘をつくだけの能力がないだけで……」と返すと、「言ったろ?馬鹿は私は大好きだ。それに、お前はなよっちい。あたしの力が欲しくはないか?ん?」と片眉を上げます。

「……なんだか、式神にするまで帰らないつもりでしょうけどね?」と言うと、「そのつもりだよ。式神にするまで何時間でもあんたの邪魔をし続けてやるさ」「おい、私の仕事は……」と、アラハバキ様がため息混じりにツッコミます。
 私は、後ろの真理矢を振り返りました。すると、真理矢は不承不承といった雰囲気でこくりと首を縦に振ります。

「……わかりました。わかりましたよ。あなたを式神にします」と、私が宣言すると、鬼は「さっすがかみな!あたしの見込んだ人間だ!」と嬉しそうに叫んで、椅子をがたんと倒すと、向かいの椅子に座る私の膝の上に乗って、ぎゅーっと抱きしめてきます。こ、この鬼、外見はスレンダーなのに、おっぱいは大きい……だと?うらやましいんだが。

「ああ、ああ、わかった。それなら、早速儀式に入ろう。かみな、儀式の流れは一通りわかっているだろうが、お前がするのはこの紙にこの鬼の名を付けてやることだけだ。さっさと終わらせるぞ」と言われ、私は髪とペンを渡され、名付けに悩みます。
 すると、鬼がひょいと私の手元をのぞき込んで、「ああ、あたしの名前か。あたしはこうだな」と言って、指で空間に文字を書いてみせます。……茨?

「あなた、ひょっとして、あの茨さんじゃないですよね?嫌ですよ、私、そんなメジャーな鬼を式神にするなんて。毎日緊張しっぱなしじゃないですか」と後ずさると、「どの茨かはわからんが、あたしは茨だよ。昔からね。それに、メジャーってほどでもないと思うが」と、私の膝から降りたままで、頭をこりこりと掻いてみせます。

「それに、鬼を式神にするやり方は、昔からある。そう珍しいことでもないさ。さ、書いた書いた」と言われ、私はペンで「茨」と書いてアラハバキ様に渡します。
「うむ……まあ、苦労もあろうが、たくましく生きろよ」とアラハバキ様に言われ、「じゃあ助けてくださいよ!あの鬼、なんとか説得してくださいよ!あなた、まつろわぬ民の総まとめ役でしょ!?」と言います。
「いや……鬼は無理だ。奴らは、そもそもこうと決めたら話を聞かんからな……私もこれでもなんとかやっているんだ。わかれ」と言われ、私は「うぐぐ……」と詰まります。

 儀式自体は、以前と変わりません。剣で紙を突き刺して、なにかの呪文を唱えて、何かが私の中に入り込んで……。
 で、私はついに鬼の主となってしまいました。

「では、私はこれで。仲良くやれよ」と、アラハバキ様は去って行きました。
「……茨さん」「茨でいいよ。敬語もなしだ。今日からあんたがあたしの主なんだろ?」と言われ、「じゃあ、茨。ちょっとパンとコーヒー牛乳買ってこいや」と、私は嫌がらせのつもりでびしっと親指を立てます。
 うまく怒らせて契約を破棄させるのが狙いでしたが、「あ、パンとコーヒー牛乳だね。パンと言っても色々あるからねえ。何のパンがいい?」と普通に返され、「え……えっと。じゃあ、ミルクフランス……」というと、「オッケー!じゃあ、ひとっ走り行ってくるよ!」と言って嵐のように去って行きました。

「……姉様、僕は姉様が望むようにするつもりですが……今回は……」と真理矢が言うので、「いや、いいよ。真理矢のせいじゃないない。……それに、一応嫌だって言ってるけど、私、本当はそんなに嫌じゃないし」と打ち明けます。
「嫌……ではないのですか?」と聞かれるので、「うーん、なんか、茨って、底抜けに明るいじゃん?だから、鬱気質の私は、なんとなくそれで励まされてる気がするし。赤毛と同じで、こっちが本音を言っても平気で返してくるしね。気の置けない友達が一人できたって感じで私は好きかな……」「姉様……僕は……」と、真理矢がそっと私の顎に手を掛けた時、「ただいま!」と茨が帰ってきました。

「はえーよ!もっと余韻に浸らせろよ!」「え?何?お楽しみだった?ぐふふ、お楽しみだった?」「茨、あなたもう帰ってください」
 ……ということで、鬼の式神ができましたよ。
にほんブログ村 哲学・思想ブログ スピリチュアル・精神世界へ
にほんブログ村