子供を救うなんて簡単なことではないけど | 魔法石の庭3rd

子供を救うなんて簡単なことではないけど

 さあて。
 例の、侵入者の子なんですが、スピリット界に降りると、食堂で茨と向き合って勉強していました。
 
「ああ、かみな。こいつ、ようやくひらがなが書けるようになったよ」と茨が言うので、私がぼーっとしている間にもちょくちょく茨だけ降りて勉強を見ていたらしいです。

「そういえば、あなたの名前聞いてなかったね?何て言うの?」と聞くと、小さな声で「エレ」と。
「……女みたいな名前ですよね。僕、あまり気に入ってないです」と言うので、「いや。良い名前じゃないですか。確かに微妙にキラキラネームっぽいけど」と言うと、「……でも、僕は好きじゃないです」と。あらら。

「……『名前は、両親が子供に最初にくれるプレゼント』だと聞きました。でも、僕は、その両親から、疎まれたんです。……ようやく、今、わかりました。僕は母親にはとっくに捨てられていたんですね」と、そう言われ、私はとっさに声が出ませんでした。札束だけを押しつけて、どこかへ消えてしまったエレ君の母。お金の使い方すら教えずに。

「んん、まあ、でも、こうしてうちの館のメンバーになったんだし、良いじゃないか。言っておくけど、うちの館にはそういう奴がごろごろいる。あんたが擬態したサーシャだって、養父に父母を殺されて、養父に虐待された挙げ句殺されて幽霊化しているんだよ。そこの真理矢だって、父親から性的虐待を受けている。うちには、そういう、『訳あり』のやつが多いんだ。かみなだって、現実世界の家族から精神病の理解を得られずに、学歴だけを求められた過去があるし、今は弟との関係に悩んでるね。だから、そういう訳ありの奴らには優しい所なんだよ」と、茨が言います。

「そういえば、サーシャ、あの時タイミング良く寝てたけど?それも、エレ君の力なの?」と聞くと、「ええと……僕は、怖い人から逃げるときなんかに、その能力で相手を眠らせていたんです。サーシャさんも、眠らせました」と少しきまずそうにしながら言われます。
 ふむ……ナイトメアの術の下位版みたいなものか。もっとも、ただ危害を加えずに眠らせるだけなら、上位版と言ってもいいですけど。

 そこに、サーシャが来て、「あ!侵入者!って、なんであんたがなじんでるのよ!」と指を差してきます。
「サーシャ、この子もうちの扶養家族になることになったから。あなたにはちょっと不本意かもしれないけど、我慢してね」というと、「おかげで恥をかかせられたわ……」と、エレ君を睨みます。吸血鬼ってプライド高そうだもんね。

「まあまあ。油断してたんだから仕方ないよ。この子はエレ君っていってね、悪い子ではないから、許してあげて?」と頼むと、「ふんっ、あんたにはお茶はないからね!」と、サーシャはキッチンでガチャガチャとお茶の用意を始めます。
「エレ君のも入れてくれると嬉しいんだけどな……」というと、サーシャはじっと私をみやったと思うと、「……わかったわよ」と、今日はその場でお茶を入れ始めます。

「茨もエレ君も、ちょっと一息入れない?休憩しないと疲れるでしょ?」と言って、私は空いていた食堂の丸テーブルに腰掛けます。
「あ、えっと……」と、エレ君が戸惑ったように皆を見ると、「この館ではね、かみなが来たら午後のお茶って決まってるんだ。まあ、降りてきた時間にもよるけどね」と茨が説明します。……てか、そんなことになってたの?道理で、私が降りるとサーシャがすぐにお茶持ってくると思ってた。

 やがて、サーシャがお盆に紅茶を入れて持ってきます。エレ君は、その「お茶会」なるものが初めてのようで、目を丸くして光景を見ています。
 あの後、お風呂に入ったのか、エレ君はぴっかぴかになっているのです。綺麗になると、これがなかなかの美少年。目が大きくて、キラキラしています。

「今日はスコーンもあるの。ジャムは姫様特製の自家製よ」と、サーシャが、自分を出し抜いたエレ君が驚いているのに気をよくしたのか、まるで自分の手柄のように説明をします。
「あ、ラズベリージャムだ。私、これ好きなんだよね」と言って、私はスコーンに手を伸ばし、まずはプレーンで一口食べてから、ジャムに手を付けます。

「美味しい。……スコーンはサーシャが作ったの?」と聞くと、サーシャは胸を張って「ええ。もうかみなに変なものは食べさせられないわ」と威張ってみせます。
 ……ちなみに、スコーンといっても、コイケヤのスコーンとは全然違いますよ?イギリスの焼き菓子の一種で、そう、ケンタッキーのビスケットみたいな格好をしています。味は違いますけどね。

「……この館、本当に徳持ちなんですね」とエレ君が言うので、「そんなに徳を持ってるってこともないけど……人間だから創造できただけでね。……そうだ、エレ君の部屋、2階に作っておいたからね。自由に使って。何か足りないものがあったら言って」と一応説明しておきます。

「足りないものって……僕は、住めるところとご飯が食べられることだけで十分です」とエレ君は言います。
「ふふ、そのうち欲しいものが出てくるよ。その頃には、エレ君も、勉強できてるでしょ」と私は微笑みます。

「……僕、町では、館の主人は非情だとか、色々聞きました。でも、素性も知らない、ただの子供を置いてくれるなんて、僕には夢みたいです。僕は、かみな様は素晴らしい人だと思います」と、エレ君が言います。
「嬉しいこといってくれるじゃないの。それじゃあ、とことんよろこばせてやるからな」「まて、そのネタはエレの教育に悪い」と茨が私を止めます。いや……ギャグにでもしないと照れるので。

「まあ、そんなに良いものでもないよ。私だって、人間だから色々と面倒なこともあるし、イライラもするし、決して聖人ではないよ。でもね。エレ君みたいな子供が、大人の都合で捨てられたりしているのは間違ってると思うし、そういうのは助けてあげたいと思ってる。助けられないにしても、手をさしのべるぐらいはしたい。そんなもんだよ」と、私は言います。
 エレ君は、じっとこっちを見ていたかと思うと、「僕には、かみな様の言ってることがよくわからないけど、一旦は捨てられたんだから、平気だと思います」と言います。
 茨に、「私、そんなに難しいこと言ったかな?」と聞くと、「ああ、エレはね、まだ文章の単語がよくわかってないんだ。満足な教育も受けられてなかったんだから仕方ないけどな。でも、まだエレは10代前半だ。大丈夫、きっと挽回できるさ」と笑います。

 全てはエレ君次第なんですよね。頑張って、エレ君。
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