サーシャの今後について | 魔法石の庭3rd

サーシャの今後について

 前回の「サーシャの義父襲撃事件」の後、私たちは何となく立ち尽くしていました。
 というか、私の頭脳の処理がまだ終わっていないので、真理矢も茨も動けない、セルフィはいつも通りに何を考えているのかわからない態度で扇子を閉じたまま、いじっていましたし。

 しばらく経ってから、サーシャがぽつりと「お茶を入れるわ」と言って義父の倒した椅子を起こし、応接間を出て行きました。

「……さて。かみな、あなたどうするつもり?あのダンピールは、確かにかみなには危害を加えるつもりはないようね。結界も発動しなかったし、門番も反応しなかった。でも、サーシャには別のようだけど」と、頃合いを計って、セルフィががたりと椅子に座ると、私も、とっさに立ち上がったままだった姿勢から、椅子にすとんと腰を下ろします。
「……この館のガイドや妖怪や精霊に危害を加える者は許さない。それは、決定済みなんですけど……」と私が言うと、真理矢が背中に槍をしまって、「それならば、次に来た時は、遠慮なく攻撃していいのですね?」と言います。

「ちょ……ちょっと待って。まだ頭がついていかない。できれば、争うことは最後の手段にしたいんだけど、あの父親の態度からすると、考えを軟化させることは難しい。よっぽどのショックがない限り、ああいう人間は変わらない。でも、争うとかはちょっと待って」と、私はこめかみを左手で押さえながら、言います。
「はっ、そこまでわかってて、力で解決するって方法を思いつかないのが不思議なもんだね。あの人間……正しくは、半人半吸血鬼か?は、サーシャに危害を加えようとしたんだろ?それならば、あたしたちも攻撃を仕掛けても良いじゃないか」と茨がうずうずしているので、「日本人はね、戦後から私みたいな考えの人間が多いんだよ。攻撃されたら攻撃を仕返すと、結局何も変わらないのはわかってるしね。……でも、茨の言うこともわかる。攻撃されたら、やり返すという強さも今後は視点にいれなければならないとね」と、私は言います。

「……それより、リリーは平気だろうか?あの義父が私の所に来たということは、リリーの所にも行くかもしれない……。リリーの情報は漏らしていないけど、サーシャの居場所を突き止めたくらいだから、ユフィさんの所にも行くかも……うーん」と、私はこめかみを揉みながら言います。

「ふうん。リリーっていうのは、サーシャの姉だね?あたしは直接会ったことはないが……確か、サーシャと違って、内気で大人しい性格だって聞いてるけど」と、茨が言います。
「うん。リリーは虐待されてなかったんだけど、ちょっと心配だな」というと、「平気じゃないかしら。あそこの城にも、攻撃型のガイドと防御に優れたガイドがいるって話だし。ダンピールごときの一人や二人、どうにでもなるんじゃないかしら」と、セルフィが楽観的なことを言います。

「そうかな……またユフィさんには迷惑かけちゃうかもしれないけど」と私がつぶやくと、セルフィは「迷惑をかけているのはあのダンピールでしょ。何でもかんでもあなたは背負い込もうとするけど、ヒロイン気取りもほどほどにした方が良いわよ」と扇子を開いたり閉じたりしています。

 コンコン、というノックの音と共に、「お茶が入ったわ」とサーシャの声がするので、私は「どうぞ」と答えます。
 サーシャはいつも通り、茶葉を蒸らして、紅茶を人数分、注いでいきます。
 その手は既に震えが止まり、私は少し安心しました。

 紅茶をサーブし終わったところで、サーシャはティーセットのそばに立ち、「あ、あの……セルフィ、ありがとう。かばってくれて」と言います。
 セルフィは、「あら?あなたが偶然私の後ろに行っただけよ」と言いますが、もちろんそれは誰にでも嘘だとわかります。
「それに、真理矢も、茨も。真理矢はお父さんの腕を切り落とすつもりだったんだよね?茨だって、殴りかかるところだった。私のせいだね。ごめん」と、サーシャは大きな赤い瞳に涙を浮かべています。
「それと……かみな。色々迷惑かけちゃってごめんね。町に変な噂が流れたら嫌だと思うけど……わ、私も、ここを出て行こうとか思ったりしたけど……かみなたちと離れるのは嫌。だから」
 と、言葉を切ります。

「お願い。私をここに置いてください。かみなたちにはまだ迷惑をかけちゃうかもしれないけど。でも、わがままを許して。お願いだから、私をここに置いてください」と、頭を下げます。
「当たり前じゃない。馬鹿だな」と、私はサーシャに言います。
「私が今更、サーシャを手放すと思う?誰に何を言われたって、私はサーシャを手放さない。そりゃ、サーシャ自身が『ここに迷惑をかける』という理由以外で、そうだな。たとえば、『やりたいことが見つかった』とかでここを出て行くのは賛成するけど、あなたにはまだ帰る家が必要でしょ?それならば、私はあなたの住む場所を制限はできない。そんな権限、私はとっくに捨ててるからね。この館は確かに『私の家』だけど、『皆の家』でもある。だから、サーシャはここにいて良いんだよ」

 私は、そう言うと、紅茶で喉を潤します。
「そう……ありがとう」と、サーシャはまた一礼します。
「もう、水くさいな。サーシャはいつも通り、堂々としていれば良いの。サーシャの生き方はサーシャの生き方。それを止めるものはない。言ったでしょ?私は、サーシャをメイドとして雇ったわけじゃないから、嫌なら掃除も料理もしなくていいって。何かをする気がないのなら、それでいい。人間だって妖怪だって一緒だよ。『育ってきた環境が違うから好き嫌いは否めない』って、有名な歌にもあるでしょ?」と言うと、「……私、それ知らない」とサーシャがぽつりと言います。

「あはは。ようやくサーシャらしさが出てきたじゃない。サーシャは、正確に言うと、『吸血鬼の亡霊』。つまり、もうあの父親を父親として見なくても良いの。無理して自分を殺した父親を好きになる必要はない。憎んだっていい。……まあ、そこのところはサーシャに任すけど」
 私はそう言って、白磁のティーカップを見つめます。そして、「ね?」と、サーシャに視線を移して、微笑みました。

「……う……えぐ……っふ」と、サーシャの涙腺がついに決壊します。
 嗚咽をあげるサーシャを、今度はセルフィが「よしよし」と言って抱き寄せて膝に半身を乗せるような格好にさせます。

 私たちは、視線を交わし合いながら、ふっと微笑みました。サーシャは館になくてはならない存在。それを、再確認したのです。
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