人間嫌いの神様はいません | 魔法石の庭3rd

人間嫌いの神様はいません

 無事、メローネとの嬉し恥ずかし初夜も終えて、私はまた茨の所に赴きました。

「なんだ?真理矢の所に行ってやらなくていいのか?」と茨は自分の部屋で存分にタバコをふかしながら言います。
 タバコの煙が霧のように、部屋中に舞っています。……私の家では、祖父が亡くなったので、タバコを吸う人はいなくなったのですが。父も吸いませんし。
 でも、タバコの匂いは結構好きです。今まで、ぜんそく持ち(大人になるにつれて発作が起きなくなったので、小児ぜんそくだったのかな?)だったので、一度もタバコを吸う機会はなかったのですが、じいちゃんが吸っていたので、なんとなくタバコの匂いは祖父の匂いと感じるのかもしれません。

「んー、どうせ、真理矢とはいつでも会えるしね。それより、茨に聞いて貰いたい独り言があってね」と言うと、「ほう?じゃあその独り言をさっさと終わらせて真理矢の所に行くんだね」と茨はふうっと空中に煙を吐き出します。

「結婚って、つまりはどういうものなのかな?私とメローネは、そもそも『結婚までは清い体で』って約束があったんだけど、真理矢とは女同士だから、いわゆる『本番行為』ってのはないでしょ?それに、スピリット界では子供も持てない。じゃあ、結婚って何なんだろう?ただの約束事?って思ったりするんだけど」
 そう言って、一応煙に巻かれないように窓を開けて、そのままサッシに腰掛けます。
 
「そうさね……あんたの独り言に付き合うとしたら、現実の結婚は『契約』だね。『他の男や女には振り向かない、もしくは子供をもうけて育て上げるための契約』だ。だが、ここ……スピリット界での結婚は、それらが破綻している。最初から、そういう契約じゃあないんだよ。じゃあ何か。それは、あたしはこっちの結婚というのは一種の『覚悟』だと思ってる。一緒にいることで相手を幸せにする、幸せになる、その覚悟だ」
 茨は、灰皿にキセルの中身をカンカンと出し終わって、それ以上吸うつもりはないようで、そのまま着物の袖にしまいます。
「それで、本当に幸せになるかどうかは実はどうでもいいんだよ。幸せになるという『覚悟』が大事なんだからね。たとえ、結婚した当初が上手くいかなくても、お互いに『相手を幸せにする、自分も幸せになる』という覚悟さえあれば、きっとそれは真の幸福に導かれると思う。人間は、『私は自分で見た物しか信じない』という人間もいるだろう?だが、空気も、声も、恋心だって目には見えない。でも、その全てが『幸せになる』ためには大事なんだよ」

 私は、「……そうだね。茨はいつも正しいもんね」とそれを受け取ります。
「そういえば、茨の村の人たちは、茨が急にいなくなっちゃって平気なの?ショックだったりしないの?」
 そう聞くと、茨は「はっ」と笑い、「村の人間は、既にあたしの手を離れてる。子供で言えば、巣立った状態なんだよ。もう、あたしがあの村で世話をする必要はない。それよりも、あんたたちの方がよちよち歩きで、親代わりを欲しているとしか思えないもんでね」と言います。
 ……茨、世話好きですしね。それに、後から思えばゆがんだ家庭とゆがんだ自己のまま育った私としては、いまだに社会にうまく溶け込めずにいます。

「……あんたも気づいているだろうが、あたしたち鬼や神獣らは、『忘れられた太古の神々』だ。朝廷に邪魔にされ、人々の記憶からは去り、そして鬼は『妖怪』として認識されている。だが、元はあたしたちも神なんだよ。そりゃ、世話好きで人間が好きでなければ、神なんてつとまらないからね。あんたの友達の……シロガネといったか。あの娘の神も、本当は手を貸したくてハラハラしてるだろうよ。まあ、ツンデレってやつだね」
 そう、茨が言い終わると、私は、「でも、シロガネさんの神様は、シロガネさんが本気で思っていないにも関わらず、つい口をついてしまった『ガイドは要らない』というだけでガイドさんを奪ってしまったんだよ?それが、本当は人が好きだって?」と反論します。

「はっ、いいかい?本当に人間が嫌いで、どうにかして人間の足をひきずり下ろしてやろうとする神が、わざわざシロガネにガイドたちが囚われている姿を見せるかね?人間が嫌いなのなら、そのまま無言でガイドを奪って、消去してやればいい。後は、人間が何を言おうと、放っておけばいいんだ。それを、あの神は律儀に答えていたじゃないか。それは、神が神として機能している証だよ。囚われた姿を見せたのも、シロガネが今後また冗談でも『ガイドは要らない』なんてことを言わせないためだよ。それぐらいはあんたの脳みそでもわかってくれないとね」
 茨にそう言われ、私は「うぐぐ」と黙ってしまいます。

 ……確かに、茨と話していると、簡単に答えが返ってくるので、そのやりとりが面白くて彼女と一緒にいる時間が多いのです。ごちゃごちゃ悩まずに済むしね。

「……茨、式神よりガイド向きなんじゃないの?少なくとも、この館のガイドたちよりはずっとガイドしてるよ」と言うと、「……式神でないとだめなんだ」と、顔を曇らせます。
「ガイドは、あんたがスピリット界にいなければ関われない存在だろう?だが、式神は、現実世界でもスピリット界でもどこでもあんたの行く所に自由に出入りすることができる。……ここまで言えば、あたしが何を言いたいかわかるかな?」と言うので、「うーん……あの、まさか、茨、寂しいとか……?」と言うと、茨はキセルを取り出そうとして、やっぱり止めたようです。

「成人して、独り立ちした子供に、親が何故いつも『金はあるか?米送るか?今度はいつ帰ってくる?』というのか知ってるか?毒親はなんとかして子供を支配下におきたいから、この場合は除くとして、親はいつまで経っても『子供は子供』なんだよ。わけのわからない話をして、どうにか電話やメールを長引かせたいのも、寂しいからだ。マザ-・テレサの言葉を知ってるかい?『食事も、住む部屋も、満たされている施設の老人たちが皆一様に玄関の方を向いている。それは、子供や孫がいつか迎えに来てくれないかと今か今かと待っているせいだ』ってね。親ってそんなもんだよ」
 茨はそう言います。私は、いまだに親のすねかじってるので、少し肩身が狭いです……。でも、うちの父も母も、いつかはボケる。私だってあと50年ほどしたらボケてますよ。そうしたら、やはり父も母も、老人ホームで玄関を見続ける日がくるのでしょうか。

「……ずいぶん引き留めちまったね。真理矢の所にいってやんな」と、茨がしっしと手で追い払う仕草をするので、「真理矢は、夜に会うって決めてる。だから、もう少し、茨の部屋にいてもいいよ」と笑います。
「……ああそうかい」と言った茨の頬は、少し赤らんでいます。「柄にもないことを言っちまった」という証かもしれませんね。
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