トラブルを背負えるトラブルメイカー | 魔法石の庭3rd

トラブルを背負えるトラブルメイカー

 スピリット界に降りたら、真理矢と茨が殴り合っているところでした。
 ……そのまましばらく二人は止まって、私もぼーっとそれを見ていると、二人はそそくさと離れます。

「……何やってんのあんたらは」とため息をつくと、「だって茨が……」と真理矢は言い訳をして、茨は「いや、さすが龍だね。なかなか力があるじゃないか」と楽しそうです。
 右と左でごちゃごちゃ言い合うので(茨は真理矢を挑発するような言い方でしたが)、「ああもう、じゃあ好きなだけ殴り合いなさいよ。私は見てるから」と言ってどっかと応接間の椅子に腰掛けます。

「……」と二人が大人しくなるので、「何?やらないの?」と言うと、「いやあ……人に見られてるとあんまり気が乗らないっていうか……」と茨が頭を掻き、真理矢は「姉様にお見苦しいところをお見せして、すみません」と謝ります。

「ん。じゃあ、仲直りにアルテミス行こう。茨も、うちのガイドたちと話してみたいだろうからね」と言って、私は玄関の方に歩き出します。「……」と背後で真理矢と茨が気まずそうにしているので、「ほら、行くよ。あんたたち式神なんだから私を守ってくれるんでしょ?」と言って促しました。

 アルテミスに着くと、接客していた赤毛が「げっ」と嫌そうに片眉を上げます。
「げって何だよ、げって。麗しい乙女が3人も来てあげたのに。赤毛好きでしょ?乙女」と言うと、「あのねえ、私が好きなのはもっと可愛らしくて守ってあげたい子と、クールで頼りがいのある子の2人もいればそれで幸せ」と言うので、「じゃあ、それを2つとも兼ねそろえた私はさぞ欲しいだろうね。ほれ。乳触るか?」とわざと胸を寄せてみると、「……かみなの乳は要らない」と失礼なことをほざきやがります。

 そして、「今接客してるから、かみなたちはあっちの奥のソファーにいてよ。……騒がないでよね?」と言ってさっさと接客している女の子たちの方へと行ってしまいます。ホント、失礼なやつだな。

 ソファー席に移動すると、私たちは「はあ~」とぐだってしまいました。
「……ここのソファ-、ホント座り心地良いなあ。安いソファーってビニール張りだから肌心地が悪いんだよね。あーあ、こういう高級ソファーが現実でも欲しい……ついでに広くてエアコン完備でネット環境が抜群に良い部屋が欲しい」と、無茶ぶりを仕掛けます。

「ドリンクをお伺いします……あら、かみな」と、姫様がやってきました。今日は、着物ではなく何故かウェイトレス姿です。
「ふうん……」と、茨は姫様を下から上へと見上げると、唐突に、すごく唐突にわしっと姫様の胸を掴みました。

「きゃあ!」と、姫様が悲鳴を上げたので、赤毛が「ど、どうしたの姫!?」と慌てていますが、「な、なんでもありません」と姫様は気丈にも持ち直して、胸を持っていたお盆で隠して茨から一歩離れました。

「ふーん、偽胸じゃないんだ。あんた、なかなかいいもの持ってるじゃないか」と茨はニヤリと笑って言います。
「……茨、触った手を出して」と私は静かに言って、左腕をこっちに差し出した茨の手を思いっきりばちーんと叩きました。
「この馬鹿鬼!いくら同性だからっていきなり人のガイドの胸触る馬鹿がどこにいるんだよ!」と叱ると、「いてて……あんた、こっちの世界ではあたしの力を分けてるんだから、ちょっとは手加減して叩いてくれよ」と茨が全然懲りてないので、「姫様、すみませんでした。この通り、この馬鹿にも謝らせるので」と、茨の頭をぐいぐい押して私自身もぺこぺこすると、「……ええと。別に、触られたぐらいでそんなに騒ぎませんよ?酒場の女なんですから」と姫様はようやく困ったように微笑みました。

「まったく……で、注文は?」と聞くと、ぽかーんとそのやりとりを見ていた真理矢が「え、ええと、僕はベルギービールで」と言うので、「ほら、茨も」とせっつくと、「ホントまだ手のひらがじんじんしてるよ……さて、酒か。あたしは酒ならなんでもいいよ。この酒場お勧めの一杯を持ってきてくれ」と言います。「あんたは少しは反省しろ。私はモーツァルトミルクお願いします」というと、姫様は「は、はい」とまだ怯えた様子で、ぱたぱたと厨房へと戻ってしまいました。

「……茨、あんた多分姫様の好感度かなり下がったよ。ってかマイナスだよ」というと、「そんなにたいしたことはしてないじゃないか……酒場の女ってのは胸や尻の一つも触られないとな」と言うので、「ここはバー!大人の恋の駆け引きを楽しむのは良いけど、いきなり肉欲から入るのは粋じゃないってもんだよ」と私は言い返します。

「……へ?あたしが、粋じゃない……?」と茨が言うので、「そう。あんたの所は酒屋だったかもしれないけどね、バーってものはいきなり胸掴んだりするのははっきり言ってつまみ出されても文句は言えないんだからね。てか、姫様、多分今の姿だと処女だから泣いてるよ?」とわざと誇張して言うと、「そ、そうかい……」と茨は妙にしゅんとします。

「……そろそろ僕にも謝って欲しいのですが」と真理矢が何故か上から目線で言うので、「ああ。悪かったね。あたしはどうも、ケンカ相手がいないとつまらんもんでね。ケンカを仕掛ける時は本気で言ってるわけじゃないんだよ。……悪かった」と、素直に謝ります。
「い、意外と素直に謝るんですね」と真理矢がびっくりしていると、「あたしは、あたしが悪いと思ったら率直に謝るのが流儀だと思ってるよ。そうするのが結局のところメンツやプライドなんかを優先するよりも、ずっと合理的じゃないか?あたしは合理的なのを好むんだ」と言います。

 やがて、姫様がおそるおそる酒を運んでくると、茨は「姫と言ったか」と声を掛けます。びくっと体を縮める姫様ですが、「ごめんな。あたしが悪かったよ。あたしは、どうもデリカシーってものに疎くてね……。本当に悪い」とちゃんと自分で謝りました。
「い、いいえ……その、私も少し大げさすぎでした」と姫様が言うので、茨はにっと笑って「そっか」と言います。

 ……茨のやつ、トラブルメイカーでもあるけど、そのトラブルの責任をちゃんと背負える人間……いや、鬼なんだなあと思います。やっぱ、姉御肌っていうか。つかみ所もないですけどね。

「あの、私、洋食にも手を出してみたんですけど、良かったらどうぞ」と言って、姫様は3人分のビーフシチューを並べてくれます。
「ありがとうございます、姫様」と私が言うと、真理矢は無言でもくもく食べ始め、茨も猛烈な勢いでシチューを攻略しています。
「ちょっとあんたたち、感想ぐらい言いなさいよね」と私が言うと、真理矢は「姫様の料理が不味いわけはないでしょう」と言って、茨は「うん、美味い!あたしはずっと辺境の村暮らしだったから、洋食ってものには縁がなかったが、これは毎日来たくなるね!」とそれぞれ言うので、姫様もぱっと嬉しそうな顔になり、私もそんな姫様を見て、幸せになったのでした。
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コメント

茨さん、豪快でとても素直な姐さんなんですね。ちゃんと自分自身の悪い所はちゃんと認めて謝る事が出来る。そういうのって誰でも出来る事じゃないと思うし、個人的にそういう性格は羨ましいですw。

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