たとえ未来のない恋でも | 魔法石の庭3rd

たとえ未来のない恋でも

「姉様は最近、ちっとも僕に構ってくれませんね」と、真理矢からぽつりと言われました。
 忙しいメローネに代わって、私と真理矢がナイトメアの小屋を掃除していた時です。

「え?そうかな……確かに、一時期みたいにすごくスピリット界に降りてるわけじゃないけど」と答えながら、私は箒を置きます。
「いいえ。現実世界でも、僕のことを思ってくれることが少なくなりました。現実では、『ふおお、このカップリング最高-!』とか言ってもだえてますし」と、真理矢がじろりと見やります。

「そういう真理矢だって、私の抱き枕にこっそり入って堪能してるじゃない」と私がジト目で見返すと、真理矢はぼっと赤くなって、「わ、わかってらしたのですか!?」と後ずさります。
「わかってるっていうか、あれだけ『好き』オーラが返ってきたら、いくら鈍い私でもわかるよ」と言って、私は新しく飼い葉を敷き詰めます。

 私は、好きカップリング妄想をするときには、抱き枕を抱いたりキスしたりしてきゃーきゃー言っているのです。そこに、真理矢が入り込んでいる感覚はありました。

「うう……穴があったら入れたい」と真理矢がちょっとずれたことを言うので、「真理矢、赤毛みたいなこと言わなくていいの」とたしなめます。
「……ナイトメアにも穴はあるんだよな」と私がギャグのつもりで言うと、「やめろ、俺の処女が!」と、レッドラムが急に暴れ出すので、「冗談だよ冗談」と言って落ち着かせます。
「言っておくけどねえ、ご主人の冗談は冗談に聞こえないんだよ!」とレッドラムがぶるる、と鼻を鳴らします。ごめんね、心のチンコがある女で。

「そういえば、ナイトメアって雌雄ないんだっけ?」と聞くと、「まあそうですね。そっちのレッドラムも、一応牝馬ですし」と、こちらは冷静にマーダーが答えます。
「うんちもしないし……じゃあ、穴ないのかな?」と聞くと、「それとこれとは別です。ナイトメアは、人間や妖怪のオスの精液を持って行って繁殖するのです。なので、ナイトメアに襲われたくなければ、枕元に牛乳の入った瓶を置いておくと、精液と間違えて持っていくと言われます」と、マーダーがしゃんと立ちながら答えます。

「ふーん?人間でも、アマゾネスっていう女だけの部族がいたっていうしねえ。アマゾネスは、他部族の男をさらってきて、子供を作ったら男を始末するってのがあるけどね」と私は完璧に敷いた飼い葉に満足して、ふう、と息を吐きます。

「真理矢、まだすねてるの?」と聞くと、「いいえ」と真理矢の怒った声が聞こえます。……完璧にすねてますわ、これ。

「現実で妄想するぐらいは許してよ。真理矢にも構うようにするからさ」というと、「……別に、無理して僕に構わなくてもいいんですよ?僕はただの式神ですから」と返ってきます。
「私が、無理して真理矢のことを好いてるとでも?」というと、「違うんですか?」と返ってきます。

 私は、レッドラムの柵の出口を通ると、マーダーの柵に手を掛けます。しかし、「こっちに来ないでください!」と言われてしまいます。
「な、なんでよ?」と私が狼狽すると、「……顔を、見られたくありません。こんな、嫉妬した醜い顔、姉様には見られたくない」と同じ所を箒で掃きながら、真理矢は顔を伏せています。
 癖のある金髪が顔を隠し、私はそれだけで「女神様みたいな子だよなあ」と思って、頬を掻きます。

 私は、少しためらってから、柵を開け、マーダーの馬房に入ります。
「……真理矢」と声をかけますが、反応はありません。飼い葉はとうに敷き詰められており、掃除はほぼ終わっています。

「真理矢、命令です。顔を上げなさい」と、私が重く言うと、ぴくりと反応した真理矢は、「……こんな時に命令を使うなんて、酷い人」と言って、顔を上げ、私の方に向き直ります。
 真理矢は、今にも泣き出しそうに見えて、それから、今にもこちらに飛びかかりそうに獰猛にも見えます。
 
「……うん。それでいいの。恋なんてものは、綺麗なだけじゃない。もっとドロドロした醜いものすら恋なの。そして、それすら愛することが本当の『恋愛』ってやつなんじゃないかな。リーガル・ハイでも言ってたよね。『醜さを愛せ』。ああでも、真理矢はその醜さすら美しくもあるけど」と、私が言うと、真理矢は体当たりして、いきなり私の体を馬房の壁に押しつけます。

「適当な……適当なことを言って!醜い僕は愛せないくせに!ぼ、僕は、これでも悩んだり、寂しい思いをしたりしているんですよ!?女同士の関係で、姉様と釣り合うのだろうかとか!姉様を見ていて、やっぱり男性が好きなんじゃないかとか!だ、だから、僕は髪だって伸ばしたし、姉様の負担にならないように触れあうのも我慢した!姉様、はっきりおっしゃってください。やっぱり男性が好きだと。女なんか好きにならないと……」と、段々声が弱々しくなっていって、真理矢はずるずるとしゃがみ込みました。

「真理矢。私は真理矢が好きだよ?」と私が言うと、真理矢は「また嘘をついて」と弱々しく言います。
「いいえ、本当。同性愛者がいわゆる『ハッテン場』で割り切った肉体関係しか持たないのは、多分、真理矢みたいな苦しみから逃げるためだと思う。人を好きになったら、どうしてもそういう苦しみは出てくるんだよ。でも、真理矢は私のことを嫌いになる?」と聞くと、真理矢はぶんぶんと首を振りました。

「……私は真理矢が好き。真理矢も私が好き。それに性差なんてなくていい。男を好きになろうが女を好きになろうが、この世界は自由なんだよ。真理矢は、現実世界にもアクセスすることができるから、現実の婚姻制度に縛られているだけ。スピリット界では、誰が誰を好きになろうが自由なんだから」と、私は真理矢の手を取って、立ち上がらせました。

「……お取り込み中申し訳ないのですが、私の馬房で痴話喧嘩はちょっと……」とマーダーが言うので、「あ、ごめんごめん。真理矢、服に藁が付いちゃったよ。洗濯してお風呂入ろう?」と言って、私たちは手を繋いだまま館へと戻りました。
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